GitHub

Githubがエンジニアに必要不可欠と言われるようになるまで

GitHub

GitHubとは、世界中の人々が自分のコードやデータを保存し共有できるソフトウェア開発のプラットフォームであり、開発者にとってのGoogle Drive+SNSと表現されるほど、共同開発には欠かせないツールである。

GitHubにはオープンなプラットフォームとクローズドのプラットフォームの2つが存在し、前者では世界中のエンジニアが公開しているコードを無料で参照することができ、自分も世界にコードを共有できるという利点があり、後者ではお金を払うことによって商用製品を作成する重要なコードを独自の閉じた作業空間の中で管理できるという利点がある。オープンソースソフトウェアとして世界中のプログラマーの才能を借りつつ、クローズドソフトウェアで独自の製品を開発することができるのだ。

2018年、GitHubはMicrosoft社に75億ドルで買収されたが、これはSkypeやLinkedinに続いて、3番目に大きかった買収案件である。このように今となっては大きく価値を認められ、エンジニアが必ず使用すると言っても過言ではないサービスを作り上げたGitHubは、どうやって今日まで成長してきたのだろうか。

GitHubの創業者、Tomの苦難

GitHub後の創業者であるTom Preston-WernerHarvey Mudd Collegeで2年生の頃、時代はインターネット・バブルの真っ只中であった。インターネット・バブルとは1990年代前期から2000年代初期にかけて、アメリカの市場を中心に起こったバブルで、インターネット関連企業の実需投資や株式投資が、実態を伴わない異常な高値になったというものである。そのような会社は「ドットコム会社」と呼ばれたのだが、彼は元々Javaの開発者としてドットコム会社のうちの一つの企業でインターンシップをしていた。バブルで景気が良くなるにつれて企業は人材不足になり、Tomはその企業でフルタイムで働かないかと打診された。彼は迷った末、大学を中退して企業でフルタイムで働くことを決めたのだが、その後すぐにインターネット・バブルは崩壊し、Tomは解雇され、無職になってしまった。大学もやめたのに無職になってしまった彼は、解雇された仲間と共に、テックコンサルの会社Cube6 Mediaを立ち上げた。そこでの仕事は、フライヤーでもwebサイトでもメディアストラテジーでも、頼まれた仕事はなんでもするというものだった。

(引用:https://www.avatrade.com/blog/trading-history/dot-com-bubble-burst-of-2000)

Ruby on Railsとの出会い

TomがCube6 Mediaで働いていた当時は、ちょうどRuby on Railsが世の中に知られ始めた頃だった。彼は次第にCube6 Mediaで得られる利益よりも、個人事業主として払わなければならない毎月の税金の方が多いことに気づき、また、Cube6 Mediaは企業として新しく不安定であるため、Ruby on Railsのような出来立てのフレームワークを使うことができず、彼はCube6 Mediaに将来性を感じなくなり、見切りをつけてRuby on Railsを使った副業を始めた。

彼が立ち上げたサービスはGravatarというもので、サイトを越えて利用できるようなアバターを作成できるサービスだった。これは現在も活用されており、たとえばGravatarで一度アバターを作成し、GravatarのメールIDを使用してWordpressなどにコメントを投稿すると、自動でアバターが表示され、サイト内で何度もログインする必要がなくなるという画期的なものだった。現在ではGitHubだけでなくSlackなどもこのシステムを導入しているため、Gravatarのアバターを1つ作っておけば、GitHub, Slackなどでのアバターの作成やサインインが容易にできるようになっている。

Gravatar

しかし、このサービスはサインインを必要とするサービスが大量に存在してこそ活躍するものであり、当時収益化するのはとても難しかった。とはいえ、Gravatarのユーザーは徐々に増えていき、TomはCube6 Mediaを運営する上で負ってしまった借金を返済するためにGravatarを活用しようと考えるようになった。

Gravatarの買収とGithubの誕生

TomはGravatarの買収先を検討する中で、当時はブログが流行していたことからWordPressの親会社であるAutomatticに買収を持ちかけようと考え、彼はAutomatticに何度もGravatarの買収を提案し、ついに買収されることに成功した。また、Gravatarの買収を提案する中で出会った、Powersetという自然言語処理の検索会社はGravatarに関心を示し、なんとTomは数回の面接を経て、Powersetに入社することが決定した。こうして数年ぶりにTomは借金から解放されたのだったが、この時Tomの頭の中にはGitHubの元となる別の事業の着想がすでに存在しており、TomはGravatarの買収を発表した次の日にGitHubの開発を始めたという。

当時、Tomと後のGitHub共同開発者であるChris WanstrathはGitに大きなポテンシャルを感じていた。開発者たちの中ではその実用性の高さから強力なファンが存在しており、GitHubのようなGitが使いやすくなるプラットフォームが存在すれば、活用されるようになるのは間違いなかった。

とはいえ、TomもChrisもGitHubのサービス構築は休日のプロジェクト程度に考えていた。それは彼らが本業を持っていたからというのも理由に1つだが、Gitが広く世間に受け入れられるまでは時間がかかるだろうと想定していたからだ。彼らがGitHubの開発を始めたのは、Git自体が開発された年であり、Gitをメインにサービスを構築してもGit利用者の市場の規模が小さすぎてヒットしないだろうと考えたのだ。

しかし、GitHubに将来性があるのは確実であったため、Gitのファンであった二人はたとえそれが週末のプロジェクト以上のものにならないとしても、それだけの価値があると認識しており、情熱を絶やさず野心的に開発を続けることができたのだ。

顧客の獲得

GitHubでの顧客を獲得するため、TomとChrisが初めにしたことは、Ruby on RailsのコミュニティにGitHubの存在を知らせ、プライベートベータ版に招待するということだった。

そこで得られたユーザーは、GitHubで開発をしたり仕事をしたりするために、GitHubにホストされているプロジェクトに人々を招待していき、雪だるま式にユーザーが増えていった。しかし、GitHubが成長するにつれ、GitHubの集客をRuby on Railsのコミュニティに依存せず、GitHubを中心としたミートアップに変化させる必要があった。

そこで、彼らはGitHubに大きなプロジェクトを招待することで、ユーザー数を増やすことができると考え、いくつかの大きなプロジェクトを招待した。初めはTomがPowersetに在石器していた時のGodというRubyプロジェクトを招待し、続いてGitHubのホスティングパートナーであるEngine Yardが開発したMerbを招待した。

また、GitHub自体を有名にするために、TomとChrisはあらゆる主要な技術/開発者カンファレンスの後、開発者たちにビールをおごるために余すところなく資金を投入した。無料のビールは、どの開発者にとっても嬉しいものであり、GitHubのサービスが良いかどうかに関わらず、GitHubの好感度と知名度を上げる良いきっかけとなった。

このように、さまざまな方法で顧客の獲得を目指しながら、GitHubはそれのサービス自体の質を向上させるために地道な作業を続けていた。インターネット上に公開されているたくさんのオープンソースを1つに集めて、それが更新されればGitHub上にコピーしたオープンソースも更新し、GitHubを見ればどのオープンソースも最新のバージョンで確認できるという状況を作ったのである。開発者たちは徐々にGitHubに重要なオープンソースの情報が集約されていることを知り、GitHubを本格的に利用するようになっていった。プライベートベータ版の運用開始から2ヶ月で、GitHub上には1000のプロジェクト(レポジトリ)が作られた。GitHubの主な価値はコードをホスティングするプラットフォームとしての役割だけでなく、初心者の開発者にGitの力を解き放つことに繋がり、GitHubを通じてGitを知るという流れも自然になっていった。その後、TomとChrisは課金システムを構築して有料プロダクトをローンチし、初日から1000ドルを稼ぐことに成功した。これはGitHubが長く苦しんでいたマネタイズという課題を解決するものであり、ここからGitHubは急成長を遂げ、今に至る。

GitHub成功の秘訣

Tomは優れたエンジニアであるが、その人生は必ずしも成功の連続とは言えないだろう。名門大学に入学したものの、インターネット・バブルの影響で失業し、一念発起して起業するもそのせいで大きな借金を背負い、多くの苦難を感じていたように思える。それでも、たとえ挑戦の中で何度も苦難を感じたとしても、GitHubを成功に導くことができたのは、Tomの根性と、何より開発への愛があってこそのことだろう。GitHubは創業時、まだGitHub内で使われるGit自体が十分に広まっていない段階であったが、それでも彼が野心的に開発を続けることができたのは開発への情熱と冷静な判断力があってこそであるし、GitHubが顧客獲得のための駆け出しで躓かなかったのも、元々彼がRuby on Railsのコミュニティに所属していたからである。

彼がプログラミングを愛し、Ruby on Railsを愛し、開発を楽しんでいたことがGitHubの大きな発展につながったといえるだろう。

参考文献

https://read.first1000.co/p/-github

https://ktkm.net/gravatar-and-how-to-use-it/

https://ja.gravatar.com/

https://www.avatrade.com/blog/trading-history/dot-com-bubble-burst-of-2000

https://en.wikipedia.org/wiki/Tom_Preston-Werner

https://en.wikipedia.org/wiki/Chris_Wanstrath

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