Notion

一時はプロジェクトの進行さえ危ぶまれた Notion は、コミュニティ戦略に舵を切り、ユーザー数を 2 年で 20 倍に増やしました。

瀕死の状態にあった Notion

2015 年、Notion は解散の危機にありました。

2013 年にアイヴァン・ザオ(@ivanhzhao)サイモン・ラスト(@simonlast)によって始められたプロジェクトは、彼らを含め 4 人のチームで進行されていました。しかし、プロダクトも十分に披露することができないまま、2 年前に調達した資金は底を着く直前。ザオとラストは彼ら以外の 2 人をチームから外す決断を下しました。それほど、Notion は厳しい状況に陥っていたのです。

そんな Notion ですが、Forbes によれば、今となっては時価総額 100 億ドル。ユーザー数は 2,000 万人を超えます。Notionはその機能性の高さから多くの人々に活用されており、個人がメモやタスク管理として利用するだけでなく、学生がノートとして使ったり、会社の中で本格的に運用されていることもあります。下に掲載したように、会社などのフォーマルな現場においても、Notionではタスク管理や日報、スケジュールの管理がしやすいことから多様な場面で活用されていることがわかります。

これまでの 7 年間に、いったい何があったのか。窮地に立たされた Notion が、どんな方法でユーザー数を爆発的に伸ばしたのか。彼らの「切り札」となった戦略をご紹介します。

Notion 1.0 のリリースとコミュニティの誕生

チームメンバーだった他の 2 人との決別後、ザオとラストはサン・フランシスコのオフィスを退居し、私たちにとって馴染み深いある場所、京都に移動しました。そこで 2 人は、必死にプロダクトのデザインとコーディングに励みました。

「どちらも日本語を話せないし、現地の方で英語を話す人もいなかったから、1 日中下着でコーディングをしまくった」

ザオは Figma とのインタビューでこう語っています。

こうして 2018 年にようやく Notion 1.0 がリリース。Product Hunt では他プロダクトを圧倒する評価を受けました。

ここで誕生したのが、後の成長戦略のカギとなる「コミュニティ」です。Product Hunt などでの露出によって、そしてプロダクトそのものの人気によって、Twitter や Reddit には Notion コミュニティが小さいながらも自然発生していました。もちろん、Notion チームが究極的に追っている数字はサインアップの数のようですが、サインアップを発生させるためのコミュニティとして、当時のマーケティングチームはコミュニティ戦略に注力することを決めました。

Notion チームからは、コミュニティ内の各レイヤーに対して、各レイヤーに合ったコミュニケーションが取られています。

一番内側から、以下のような構成になっています。

(1)アンバサダーを務めるユーザー

(2)オンラインコミュニティに属するユーザー

(3)Notion を使う全てのユーザー

(1)のアンバサダーは、プロダクトを熟知しているだけでなく、プロダクトの英語以外への翻訳を担当したり、各地でのイベントを企画したりするコアメンバーです。20 ヵ国以上に、100 人以上のアンバサダーが存在しているとされていますが、アンバサダーに報酬が支払われることは、基本的にありません。任意での参加ということですね。

以下は、日本でよく知られているアンバサダーの方々です。

きむらあつしさん(@atsushi800)

Yuji Tsuburaya さん(@___35d)

Shogo Tahara さん(@shogocat)

のしょこさん(@notioko)

shodai.so さん(@shodaiiiiii)

よねざわ(札幌)さん(@satosiyonezawa)

(2)のオンラインコミュニティに属するメンバーは、Twitter や Facebook だけでなく、Slack や Dicord 、Reddit などありとあらゆる場所に広がっています。こういったコミュニティはマーケティングチームが設立したものではなく、あくまでも自然発生的です(一部を除く)。(1)のアンバサダーが運営していることもよくあります。

(3)の Notion を使う全てのユーザーについては、言葉のとおりですね。

このように、内側から外側に向けて、Notion のバリューが伝搬される設計になっているのです。

と、ここまでは一般的なコミュニティ戦略のように聞こえますが、その戦略が「机上の空論」状態になってしまい、コミュニティを機能させられないケースも多々あるでしょう。Notion がコミュニティ戦略で一足先を行ったのは、戦略を機能させるための徹底的な「寄り添い」があったからでした。

コミュニティに対する徹底的な寄り添い

Notion は、全てのユーザー、特に(3)のNotion を使う全てのユーザーに向けて、Notion Community というページを用意しています。このページは、ありとあらゆるコミュニティとの関わり方を網羅しており、Notion 初心者でも、どうすれば自分に適したコミュニティに参加できるかが丸わかり。各所に散らばったコミュニティも一目でわかるように整理されています(もちろん Notion で)。

どうすればアンバサダーになれるか、どんなウェビナーが開催されているか、などなど、コミュニティへの参加方法を網羅しています。ちなみにここにリストアップされているウェビナーは一般ユーザーが企画しているもの。もしあなたがウェビナーを開催することになったら、Notion Community から Notion チームにメッセージを送れば、このページに載せてくれることがあるというわけです。

アンバサダーになるための要件を説明するセクション

一般ユーザーによって開催予定のウェビナー一覧

ロケーション別に分けられたコミュニティリスト(日本の数が多い)

Notion チームは、(1)のアンバサダーに対して特典を用意しています。チームとの交流、新機能へのアーリーアクセス、Notion グッズの提供などなど、Notion ファンならよだれが出るほどの特典が用意されています。

アンバサダーなどのコアユーザーが、知識をマネタイズできるような土壌を Notion が整えていることも重要です。テンプレートは代表的なマネタイズの例で、多くのユーザーが Gumroad でテンプレートを販売しています。また、チュートリアルを有料で提供するユーザーももちろんいるでしょう。こうして Notion の知識をマネタイズできるユーザーがいることも、コミュニティが自走できる 1 つの大きな要因です。極端な話、Notion チームがチュートリアルを作らなくても、コアユーザーの知識がコミュニティの外側に向けて広がっていくわけですからね。

では、テンプレートを売ってどのくらい稼げるのか?

実は、1 つのテンプレートから 4 ヶ月で 15,000 ドルを稼いだという話があったり、テンプレートの販売で自分の本業より稼いだという人も出てきたりしています。

このようなコミュニティ戦略を通すことで、Community Digest によれば、 Notion は新規ユーザーの約 80% を口コミ経由で獲得しており、採用さえもこのコミュニティから行なっています。そして、Notion のコミュニティは各所で継続的に拡大。例えば、ソーシャルメディアよりもコミュニティとしての機能が強い掲示板の Reddit では、類似ツール・人気ツールを遥かに超える規模のコミュニティを形成することに成功したのです。

ちなみに Twitter には #notiontwt (Notion Twitter)というハッシュタグさえ存在します。



TikTok では、ユーザー投稿の動画が数多く再生されています。

コミュニティの正しい設計と、そこに属するあらゆるユーザーに対しての寄り添い。もちろん成長の要因を 1 つに絞ることはできませんが、Notion のコミュニティ戦略が、ユーザー数の爆発的増加に貢献したことは間違いないでしょう。


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