Airbnb

Airbnbは、革新的なアイデアと顧客に一対一で向き合う信念をもとに、今も世界中で大きな成長を遂げている。

Airbnb発展までの歴史

2007年、後のAirbnb創業者となるBrian CheskyJoe Gebbiaは、自分たちのアパートの家賃を払う余裕がなかったことをきっかけに、自宅のロフトを宿泊場所として貸し出すことにした。とはいえ、Craigslistで自宅の情報を公開するのをためらった彼らは独自のサイトを開設して宿泊者を募ろうと思い立った。これがAirbnbの始まりである。

(※Craigslist:アメリカのサンフランシスコ・ベイエリアのローカル情報を交換するためのコミュニティサイト。Airbnb発展のきっかけとなる。)

(引用:https://ja.wikipedia.org/wiki/Airbnb)

サイトを開設した週末には、世界各国から是非サイトを利用したいという連絡が届き始めた。これを機に、彼らはプラットフォームの国際的な需要に気づき、自分達のためのサイトという視点から大規模な国際版サイトとしてどうあるべきかという視点に移って基本的な市場調査を開始した。

翌年の春、ついに「Airbed&Breakfast」としてサービスが立ち上げられた。この名称は、床にエアマットレスを並べ、家庭料理の朝食を約束してロフトを貸し出したのが全ての始まりであったことに由来している。

名を改め「Airbnb」となったサービスは、2015年秋の時点で年間収益約9億ドルであり、ユーザーは大規模に増加し、掲載物件は全世界で180万件を超えていた。評価額は255億ドルと、WyndhamやHyattといったレガシー・ビジネスよりも高い価値を持つようになった。この驚異的な成長により、Y Combinator、Sequoia Capital、Keith Rabois、Andreessen Horowitz、TPG Growthを含め32の投資家から8回のラウンドで23億9000万ドルを超える資金を獲得した。

掲載物件数の比較 (引用:https://read.first1000.co/p/airbnb?s=r)

このように創業から8年にして急成長したAirbnbであるが、そのファーストステップは「大統領シリアルキャンペーン」であった。

革新的なシリアルキャンペーン

2008年の夏、「AirBed&Breakfast」の創業者たちは資金調達に追われていた。そんな彼らを救ったのはシリアルであった。大量のシリアルを購入し、選挙をテーマにした特別仕様の箱をデザインして同年秋に発売すると、それぞれのシリアルは500箱ずつ売れ、AirBed & Breakfastのために約3万ドルの資金を調達することができた。

シリアルキャンペーンで販売されたシリアル (引用:https://read.first1000.co/p/airbnb?s=r)

サイトがなかなか普及せず、残ったシリアルで生活する低迷期もあったものの、翌年の春、彼らはスタートアップのインキュベーターであるY Combinatorの創業者、Paul Graham氏と出会う。Graham氏は、「このアイデアはクレイジーだ。私ならば絶対にやらない。」と言いながら、創業者たちのシリアルを売ってまで事業を継続させようとする根性を買って投資を決める。AirBed & BreakfastはY Combinatorの2009年冬のクラスに参加し、2万ドルの資金を得た。その後、社名をAirbnbと改め、Sequoia CapitalとY Venturesから60万ドルのシードラウンドを獲得した。もちろんAirbnbのシリアルを売ってまで資金を集めようとするビジネスモデルには批判の声も絶えなかった。AirbnbはUnion Square Venturesのフレッド・ウィルソンに拒絶されたことでも有名だ。(ウィルソン氏は2011年、Union Square社の会議室にシリアルの箱を置き、二度と同じ過ちを繰り返さないようにと念を押したという。)

懸念されたのはビジネスモデルだけではない。GebbiaとCheskyはともにロードアイランド・スクール・オブ・デザイン出身のデザイナーであった。投資家は、技術分野で確固たる経歴を持つハーバード大卒のBlecharczyk(現AirbnbのCTO)がすでにエンジニアとして契約していたとはいえ、デザイナーが創業者の会社をどう評価していいのか分からなかった。

しかし、創業間もないスタートアップが必ず直面する資金問題に対して、大統領シリアルキャンペーンという革新的で予想外のソリューションを見出すことができたのは、おそらく彼らのデザイナーとしてのバックグラウンドがあったからだろう。Airbnbが最初の1,000人の顧客を獲得する際の成長戦略を支えたのは、彼らの革新的な能力とシリアルを用いてでも事業を継続させようとした根性だと言える。

だが、革新的な能力を以ってしても、ユーザーベースが存在しなければAirbnbのプラットフォームは機能しない。そこで彼らが考えたのが、Craigslistプラットフォームへの「寄生」であった。

Craigslistプラットフォームへの寄生

前述のように、Airbnbには大規模なユーザーベースが存在しない。そこで創業者たちが目をつけたのがCraigslistであった。Craigslistは、アメリカのサンフランシスコ・ベイエリアのローカル情報を交換するためのコミュニティサイトである。AirbnbはCraigslistの市場を開拓するために、Craigslistの許可を得ていないにも関わらず、Airbnbに物件を掲載しているユーザーに対してCraigslistにも物件を掲載する機会を提供した。実際の手順は、

  1. 以下に添付したメールのように、「Airbnbの物件、Craigslistにもワンクリックで掲載できます。」というメッセージをAirbnbのユーザーに送る。
  2. botを利用してCraigslistにAirbnbの物件を掲載。
  3. Airbnbの物件ページのリンクが乗ったCraigslistの物件ページが完成。
Craigslistへ物件を投稿させる仕組み
Airbnbから物件掲載者への実際のメール文 (引用:https://read.first1000.co/p/airbnb?s=r)

こうしてCraigslistのユーザーにAirbnbの物件を紹介するというシステムが完成した。

物件を予約したいユーザーはCraigslistを利用しても毎回Airbnbの物件ページに飛ぶので、初めからAirbnbで物件を予約するようになる。一方Airbnbに物件を掲載しているユーザーも、Airbnbの方が利益が取れるようになるためAirbnbで物件を掲載するようになった。このように、AirbnbはCraigslistのユーザーベースをハッキングする形で急成長していったのだ。

当時Craiglistのバケーションレンタル部門で働いていたDave Gooden氏は、2009年末にAirbnbの不思議な成長について調べ始めたという。

SEO対策も、SNSも、GoogleやFacebookでの広告費も、大規模なものは何も見つからなかった。このような成長のための合理的な理由や伝統的な理由が見つからないのだ。

これはブラックハット(悪意のあるハッキング行為)なのではないかと疑ったGoodenは、Craigslistに賃貸物件をいくつか掲載し、Craigslist以外のオファーについて連絡を受けたくないことを明確に指定した。しかし数時間のうちに、自分の物件をとても気に入った「若い女性」からメールが届き、Airbnbをチェックしてほしいと言われたそうだ。彼は、このメールでAirbnbのブラックハット作戦に気がついたという。

ただAirbnbが実際にこの方法でユーザーベースを利用して情報を獲得できるのか確認するため、GoodenはCraigslistのメールハーベスティング技術とマスメール技術を使って、Craigslistのユーザーを対象に物件貸出のためのテストサイトを構築した。その結果、1000人以上の物件のオーナーがそのテストサイトに物件を登録した。

このような作戦を展開すれば、1日に数万人のターゲットに簡単にリーチすることができ、供給側である6万人の会員をすぐに獲得することができることがわかった。この戦略や手法を使ったのはAirbnbだけではないかもしれないが、10億ドルの評価額で1億ドルの投資に結びつけたのは彼らが初めてだろう。

Craigslistのプラットフォームへの寄生は、Airbnbを素早く、ほとんどコストをかけずに成長させるのに貢献したのだ。

ただ、これでは、アメリカのベイサイドに特化したユーザーベースしか得られない。Airbnbはどう世界中に広まっていったのだろうか。

ベイサイドから世界中へ

2014年8月、AirbnbのRebecca Rosenfelt氏は「Going for Global」と題した講演を行い、同社の国際成長戦略の一端を紹介した。彼女は、Airbnbはシリコンバレーでは成熟した企業だと思われているが、世界の他の地域ではまだ "スクラップ・スタートアップ "に近いことを指摘し、”我々は、新しい地域に進出する際に何度も何度も成長をとめなければならなかった "と話している。

その苦労の一端は、Airbnbが両面市場であること、つまり、新しい市場に参入しようとするたびに、需要側(旅行者)と供給側(ホスト)の両方をゼロから育てなければならなかったことにある。特に、見知らぬ人に自分の家を開放することに抵抗感を持つ人は多く、供給側を育てるのは非常に難しかった。

そこで、Airbnbは市場における供給側の顧客拡大のための方法として2つのアプローチ(以下、(A)(B))を考え、実際にフランスのある市場においてそれぞれの効果をテストすることにした。

(A)実際に市場を訪問して、パーティーや説明会を開いたり、町中にブースを出したり、チラシを貼ったりする。相手がホスティングに興味を示した場合は、連絡先を必ず聞き、より詳しい情報を提供するなどフォローアップを行う。

(B)FacebookなどSNSの広告でターゲットにする。

検証の結果、実際に市場に人を送り込んだ方が獲得単価が5倍も良いことが分かった。

Airbnbは、実際に市場に人を送り込むことで市場を活性化させ、順調に成長を続けてグローバルな市場を獲得している。

今回の事例のように、新しい市場に実際に人を送り込むなど、スケールしないだろうとされる戦術が当初考えていたよりもスケールする可能性がある。時にはそんな戦術に賭けてみることが有益になりうるのだ。

Airbnbの信念とは

Y Combinatorの創業者Paul Grahamは、Airbnb創業者の3人に出資する際に、2つアドバイスをしたと言われている。

(1)「100万人に漫然と好かれるより、100人に本気で愛される存在になれ」

(2)「(ユーザーの多い)ニューヨークに行け」

実際、当時ローンチしたばかりから、Airbnbは「現地に赴いて実際に市場の人と触れ合い、彼らの現状を把握する。そこで100人に本気で愛される。」ことを大切にしており、それは今も継続されている。

この考え方はスタートアップに最も大切な精神だと言っても過言ではない。顧客一人ひとりに向き合い直接アプローチしていく姿勢は、今もAirbnbの急成長を支えている。

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